河豚にあたって死にそこなった 怖~いお話 (3)

・・・・・・・・・・・・・・・・何とか家に着いたものの毒は結構回っていた。


水を一杯飲んでベッドに入り電気を消す。 
布団に包っているのだが、今度は寒くて寒くて体が震える。 悪寒というやつだ。
真っ暗な部屋で目の前のタイマー時計のデジタル表示だけが見えるがピントが合わない。
それでもジッと見つめながら、「これはもう駄目かもしれない・・・」
意識が消えて行く中、今度は悪夢がやってきた。
夢の中で電車が走っている。 それも物凄いスピードで
自分の前を音も無く何度も何度も走り回っている。
そして、それが襲い掛かってきそうでとても怖い。
これと同じ夢を子供の頃よく見た記憶があるが、
ストーリーも無いただ恐怖だけが襲ってくる悪夢だ。
怖くて目がさめると心臓はバクバク、びっしょりと冷たい寝汗をかいていたが、
自分自身の身体感覚はすでに薄れていた。

意識は混濁、体は不動の中、何かを思い出さなきやいけないと思うのだが、
思い出すものが何だか解らないし、思い出すことも出来ない。
何か考え続けていないとこのまま逝っちゃうような気がして
何か考えようとするのだが、頭の中では数秒刻みで勝手に思考がワープしていく。
そして頭の中に浮かぶ映像が勝手に次々と変っていく。
父親の顔と昔ふられた彼女の顔が付いたスロットマシーンの絵柄が回転している。
オヤジの顔が横一列に並ぶ。 だけどコインは出てこない。
ああ、ワタシは壊れていく・・・  
遠くで声が聞こえた。「イサオ(私の名前)ダイジョウブ?」
母親が傍に居た気がしたが、声も出せない。 体も動けない。 反応出来ない・・・

次に目が覚めたときはカーテンの向こうが少し明るかった。
ガシャンという音がして2トラ38 のオープンデッキが回り始めた。
前の日、エアチェック用にセットしたNHK-FMの朝のタイマー録音が始まった。
オープンリールの回転を見ているうちに段々意識が蘇ってきた。
「ああ、まだ生きている!」
やっとこさベッドから立ち上がり、水を一杯飲みにキッチンへ、
力が入らず、体がやけに軽く感じて、自分であって自分でない。
抜け殻のようで、フワフワと浮遊している感覚。
これが幽体離脱というやつか? いや違う違う。
体の毒は大部抜けてくれたようだ。
母親に昨夜の状態を話すと、やっと信じてくれたみたい。
「ゴメン、ゴメン。」と言われても・・・
「いまさら遅いんだよね。生死をさまよっていたのにね。」

母親は急に心配して知り合いにふぐ毒の解毒方法を電話で聞いて回るが、
そんなの誰も知らないだろうに。 こんなケースは滅多にないからね。
あの時、全部はいてしまった事が結果的には良かったんだと思う。
あとは自己治癒力だったんでしょうか。
何処で聞いて来たか、重曹が良いらしいなんで言い出して飲まされた。 
「あく抜きじゃないんだからもう。わたしゃ竹の子かい?」
でも、一日ベットで寝ていたら翌日はもうケロりと復活。
若い時は回復も早いもんです。
結局、病院には行きませんでした。 
行ってフグ毒にあたって云々かんぬんなどと言いだすと
関係筋に多大な迷惑がかかりそうなので、毒と共に我が腹に封印いたしました。

それからはフグを食べるのは止めにしていましたが、一度だけ口にした事があります。
父が肺癌で闘病後、退院祝いに我が家で食べた極上のトラフグ。
それも父の友人が差し入れてくれましたが、肝はありませんでした。
それが間もなく旅立った父にとっても、私にとっても最後のフグとなりました。

しかし、初期症状のあの痺れは微妙に気持ちよかったなあ。

                                           End
                                        

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Commented by minton at 2010-01-27 19:48 x
味わった人しかわからない、魅惑の毒ということですね。
御無事でなによりです。^^
Commented by tullyz2 at 2010-01-27 20:09
ご無事で何よりでした。怖いものなのですね。
原因はある程度明白だと思うのですが、当初、医者に行こうという発想は
なかったのでしょうか・・・。
やっぱり関係者に迷惑、ということなのでしょうかね。
Commented by marierit at 2010-01-27 20:36
mintonさん、
確かに。生きていて良かったです。

Commented by marierit at 2010-01-27 20:45
tullyz2さん、 あのまま宴会の席に居たら救急車でも呼んでいたでしょう。
半信半疑の状態で一人で帰って、思考も停止状態でしたからなすすべもありませんでした。
後日、父親の友人の耳に入ったときはかなり恐縮と反省をしていました。
有資格者であってもやはり肝を供しちゃいかんですね。
それを無謀にも食べるほうもいかんですが。
Commented by at 2010-01-27 22:15 x
こんばんわ。
スロットマシーンと2トラ38の描写がすばらしいです。はい。
若干のピリピリ感が、たまらなく、おいしいのですよね。
ほんのすこしですよ、ちょっぴり、ぴりぴり、、、笑)
Commented by andoodesign at 2010-01-28 00:32
運が悪ければ夜道で行き倒れしてたかも...。コワっ。
一切れだけにしておけば、美味しい思いだけで済んだかもしれませんよー。
新鮮な牡蛎でも体力が落ちてる時にいっぱい食べるとお腹をこわしますよね。意味が違うか...。笑
Commented by marierit at 2010-01-28 17:09
♭さん、
頭の中のスロットは不思議でした。
夢の中の自分が夢を見ているようで。
Commented by marierit at 2010-01-28 17:10
andoodesiginさん、
そう、いつもは一切れで我慢していたんですが、
あたった時は食べすぎでした。
Commented by cattleman at 2010-01-28 22:06
いやー、えらい目にあいましたね。やばそうな物は欲をかいちゃいけませんね。
沖縄で自分の獲ってきたものに当たってしまったんですが意識混濁までには至りませんでしたがあんな思いは2度としたくないです。
Commented by marierit at 2010-01-29 18:59
牛飼いさん、
おなじ目にあいましたか。
沖縄あたりですとフグも結構釣れるのでしょうね。
Commented by DION at 2010-01-30 11:57 x
ふぐの毒にあたるとこんな症状になるのですね。
ドキドキしました。
かなり冷静にご自身の状況を把握されていらしたようですね。
それにしても禁断のふぐの肝、
どんな美味しさかとっても気になります。
食べてみたいです。
ちょっとシビレルぐらいが良いのかも?(なんて怖いですね・笑)
Commented by marierit at 2010-01-30 21:54
DIONさん、
当たっている最中はそれ所ではなく、
後で思い返してみるとこんな感じでした。
面白そうに書きましたが、虚飾はありません。
by marierit | 2010-01-27 19:00 | その他 | Comments(12)